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大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)19号 判決

茨木市春日一丁目一二-三

原告

影山孝

右訴訟代理人弁護士

北尻得五郎

松本晶行

阪本政敬

池上健治

松本研三

川崎裕子

吉川実

茨木市上中条一丁目九-二一

被告

茨木税務署長

村上司

右指定代理人

平井義丸

中村治

神谷明

堀尾三郎

主文

被告が原告に対し、昭和四八年九月二一日付で原告の昭和四七年度分の所得税についてなした更正処分及び過少申告加算税賦課決定は、分離長期譲渡所得金額金一四、八一五、一二六円を基礎として算出される税額を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

1  被告が原告に対し昭和四八年九月二一日付で原告の昭和四七年度分の所得税についてなした更正処分のうち分離長期譲渡所得金額金一一、六九三、五五三円及び税額金一、七三九、一〇〇円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の陳述

(請求原因)

一、原告は、被告に対し、昭和四七年度分の所得税につき、不動産所得金額金一二〇、〇〇〇円、分離長期譲渡所得金額金一一、六九三、五五三円とする確定申告をした。これに対し被告は、昭和四八年九月二一日付で、不動産所得金額金一二〇、〇〇〇円、分離長期譲渡所得金額金三七、二三二、二七六円とする更正処分及び過少申告加算税金一九一、五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定をした。

二、本件各処分は、分離長期譲渡所得金額を過大に認定した違法な処分である。

三、よつて原告は被告に対し、本件更正処分のうち分離長期譲渡所得金額金一一、六九三、五五三円、税額金一、七三九、一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の取消を求める。

(被告の答弁)

請求原因一項は認め、二項は争う。

(被告の抗弁)

原告の本件係争年度における分離長期譲渡所得金額は次のとおり金三七、五五五、一二六円であるから、この範囲でなされた本件各処分は違法ではない。

1  譲渡価額の総額 金五六、五〇〇、〇〇〇円

原告は、自己所有の(イ)、八尾市山本町南一丁目一一八番所在の宅地三六三・六三平方メートル、(ロ)、同地上家屋番号同所一一八の五番所在の建物(木造・瓦葺・平家・居宅・床面積六四・二九平方メートル)(ハ)、同所一一八の三番所在の建物(木造・瓦葺・平家・居宅・床面積四三・〇七平方メートル)・(ニ)、同所一一八の四番所在の建物(木造・瓦葺・平家・居宅・床面積四三・〇四平方メートル)(以下、本件土地建物という)を、昭和四七年一〇月二一日、訴外聖心住宅株式会社に総額金五六、五〇〇、〇〇〇円で売渡した。

2  分離短期譲渡収入金額 金三、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件譲渡に際し本件土地建物のうち自己の所有でなかつた前記(ニ)の建物につき所有者である川浦清太郎から昭和四七年一〇月二〇日金三、〇〇〇、〇〇〇円で買取り、直ちにこれを金三、〇〇〇、〇〇〇円で聖心住宅株式会社に譲渡した。

右のとおり前記(ニ)の建物については、原告は買取りと同時に譲渡したのであるから、前記譲渡価額総額金五六、五〇〇、〇〇〇円のうち右金三、〇〇〇、〇〇〇円は、租税特別措置法(以下措置法という)三二条により、分離短期譲渡所得の収入金額となる。

3  分離長期譲渡収入金額 金五三、五〇〇、〇〇〇円

前記1の金額から前記2の金額を控除した金五三、五〇〇、〇〇〇円は措置法三一条該当の分離長期譲渡所得の収入金額となる。

4  譲渡なかりしものとみなされる金額 金一、二六九、八七四円

原告は、訴外中井晋(以下、中井という)が訴外八尾市八尾農業協同組合(以下、八尾農協という)から金員を借り受けるにつき、訴外藤井幸太郎(以下、藤井という)と共に連帯保証した。

ところで昭和四七年一一月当時、中井の八尾農協に対する債務は、元金二、〇〇〇、〇〇〇円及び昭和四三年七月一日から昭和四七年一一月一五日までの利息金一、二〇八、一九四円の合計金三、二〇八、一九四円となつていた。そして中井が八尾農協に担保として差入れていた中井の八尾農協に対する定期預金債権金五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する利息金一六八、四四五円の合計金六六八、四四五円が右債務に充当され、残金は金二、五三九、七四九円となつた。

原告は、右保証債務を履行するため、本件土地建物を譲渡(売却)し、八尾農協に金二、五三九、七四九円を支払つた。

中井は無資力であるので中井に求償権を行使し回収することはできないが、連帯保証人である藤井(昭和四〇年六月一七日死亡)の相続人は資力があり、右相続人に対する求償権の行使は可能である。

したがつて前記原告が代位弁済した保証債務金二、五三九、七四九円のうち、その負担部分二分の一の金一、二六九、八七四円については所得税法六四条二項により譲渡なかりしものとみなされる。

5  差引分離長期譲渡収入金額 金五二、二三〇、一二六円

前記3の金額から4の金額を差引いたものである。

6  必要経費 金三、六七五、〇〇〇円

(イ) 取得費 金二、六七五、〇〇〇円

原告は、本件土地建物のうち(イ)(ロ)(ハ)につき昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたので、収入金額から控除する取得費は、措置法三一条の二により当該収入金額の一〇〇分の五に相当する金額である。

したがつて分離長期譲渡所得の収入金額金五三、五〇〇、〇〇〇円の五%にあたる金二、六七五、〇〇〇円が取得費となる。

(ロ) 仲介手数料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件土地建物の譲渡につき、仲介業者の訴外三和不動産こと中山泰に仲介を依頼し、昭和四七年一一月二八日、同訴外人に仲介手数料として金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた。

7  特別控除額 金一一、〇〇〇、〇〇〇円

(イ) 居住用財産の特別控除額 金一〇、〇〇〇、〇〇〇円

原告は本件土地建物のうち(イ)の一部及び(ロ)を居住の用に供していたから措置法三五条により金一〇、〇〇〇、〇〇〇円が居住用財産の譲渡所得の特別控除として控除される。

(ロ) 分離長期譲渡所得の特別控除 金一、〇〇〇、〇〇〇円

措置法三一条二項により金一、〇〇〇、〇〇〇円が特別控除される。

8  分離長期譲渡所得金額 金三七、五五五、一二六円

前記5の金額から6及び7の金額を差引いたものである。

(抗弁に対する原告の答弁及び主張)

一、抗弁1、2、3、6、7は認め、5、8は争う、4のうち中井の八尾農協に対する債務額、原告の八尾農協に対する支払額、原告の負担部分の割合を争い、その余は認める。

二1  原告は、昭和三九年二月一七日中井が八尾農協から金八、〇〇〇、〇〇〇円を借り受けるに際し、藤井と共に連帯保証した。

そして原告は、本件土地建物を譲渡(売却)し、八尾農協に対し、右保証人として金三、一八五、四四七円を代位弁済した。

ところで、原告が藤井よりも資力があり、又藤井は頭数を揃えるため中井に依頼されて連帯保証したのに対し、原告は中井の後見的な地位にいたため連帯保証をしたことから、原告と藤井との間では、最終的な損失の負担は原告が負うという暗黙の合意があり、したがつて藤井の実質的負担部分は零であつた。又藤井は昭和四〇年六月一七日死亡したが、その後八尾農協は原告の同意を得て右相続人の保証債務を免除した。したがつて原告は藤井の相続人に対しても求償権を行使することはできない。

それゆえ、前記代位弁済額金三、一八五、四四七円全額について所得税法六四条二項の適用がある。

2(一)  原告は、中井の訴外内田寿栄男(以下、内田という)に対する貸金ないしは出資金債務金一八、〇〇〇、〇〇〇円につき、物上保証人となり、原告所有の不動産に抵当権を設定し、又内田が中井に代つて訴外日本貯蓄信用組合に代位弁済したことによる中井の求償債務金二、七三六、八七一円につき保証していた。即ち

(1) 中井は、昭和三五年頃から藤井らと共同して不動産業を営んでいた。そして中井は右不動産業を営むにつき内田から出資を受けていた。

(2) 昭和四一年一一月頃、原告は中井の依頼により、中井の内田に対する債務につき物上保証をし、原告所有の不動産に内田のため抵当権を設定することを承諾し、実印、印鑑証明書等を中井に交付した。

(3) ところが当初の約に反し、原告が債務者とされ、又債権額も中井からは金七、八〇〇、〇〇〇円と聞かされていたのにこれを金一八、〇〇〇、〇〇〇円とする抵当権設定登記がなされた。

(4) そこで原告は、内田と交渉したが、債権額について中井は金七、八〇〇、〇〇〇円である旨主張し、内田は金一八、〇〇〇、〇〇〇円である旨主張して解決がつかない状態となつた。そのため原告は、訴を提起することによる費用の負担、勝訴の見込がたたないこと等を考慮し、金一八、〇〇〇、〇〇〇円につき物上保証したことを前提に解決することとし、更に中井や内田の求めにより、内田が中井に代つて日本貯蓄信用組合に対し金二、一六九、二二九円を代位弁済したことによる中井の求償債務についてもこれを保証することとし、昭和四七年九月二九日、原告、中井、内田の三者間で、(イ)原告及び中井は、内田に対し連帯して登記簿記載の元本金一八、〇〇〇、〇〇〇円及び昭和四一年一二月一日から支払済に至るまで年一割五分の割合による金員の支払義務のあることを認める、(ロ)、原告及び中井は連帯して内田に対し右債務の弁済として昭和四七年一〇月一〇日迄に金二〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払う、(ハ)、原告及び中井は、内田に対し、原告及び中井の日本貯蓄信用組合に対する債務につき内田が保証人として昭和四六年一二月二五日代位弁済した元本金二、一六九、二二九円及び昭和四三年一〇月一一日から昭和四六年一二月二五日迄の利息金五六七、六四二円の合計金二、七三六、八七一円の債務があることを認め、その全額を昭和四七年一〇月一〇日迄に支払う等を内容とする和解が成立した。

右和解において原告が債務者の如くされているのは、内田の代理人である弁護士から、前記の如く原告を債務者とする抵当権設定登記がなされておるし、又物上保証人が債務者となつても実質的効力は同じである等といわれたことなどによるものである。

(二)  そこで原告は、右債務を履行するため、本件土地建物を売却し、昭和四七年一〇月二三日内田に右債務の履行として金二二、七四〇、〇〇〇円を支払つた。

(三)  以上のように原告は、中井の内田に対する債務につき、実質上、物上保証人あるいは保証人として代位弁済したものである。そして中井は無資力であるから、同人に対して求償権を行使することはできない。したがつて右代位弁済額金二二、七四〇、〇〇〇円につき所得税法六四条二項が適用されるべきである。

(原告の主張に対する被告の認否)

一、二項1のうち、原告の八尾農協に対する弁済額、藤井の負担部分が零であるとの事実、藤井の相続人が八尾農協から保証債務の免除を受けたとの事実は否認する。

二、二項2のうち、原告が中井の内田に対する債務につき、物上保証あるいは保証したとの事実は否認する。

原告は、不動産業を営んでいたところ、その資金にあてるため内田から金一五、八九三、〇〇〇円の融資を受けていた。したがつて原告が内田に支払つたとする金二二、七四〇、〇〇〇円は原告固有の債務の支払である。

第三、証拠

(原告)

一、甲第一、第二、第三号証提出。

二、証人中井晋、同近藤義男、同内田寿栄男、同片岡寛の各証言、原告本人尋問の結果援用。

三、乙第一乃至第一一号証、第一五号証、第一七乃至第一九号証、第二四、第二五号証、第二六号証の一、二の成立は認める、乙第一六号証のうち官署作成部分の成立は認めその余の部分の成立は不知、その余の乙各号証の成立は不知。

(被告)

一、乙第一乃至第二五号証、第二六号証の一、二提出。

二、証人内田寿栄男、同片岡寛の各証言援用。

三、甲各号証の成立は認める。

理由

一、請求原因一項の事実(確定申告の事実、本件各処分の存在等)は当事者間で争いはない。

二1  被告の抗弁1、2、3、6、7の事実即ち原告が本件係争年度に本件土地建物を総額金五六、五〇〇、〇〇〇円で譲渡(売却)し、その内分離長期譲渡収入金額が金五三、五〇〇、〇〇〇円であること、又必要経費が金三、六七五、〇〇〇円であり、特別控除額が金一一、〇〇〇、〇〇〇円であること等は当事者間で争いはない。

2  そこで以下所得税法六四条二項の該当性につき判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第一乃至第一〇号証、証人中井晋、同近藤義男、同内田寿栄男の各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 中井は、昭和三四年頃から、単独あるいは藤井、訴外炭本らと共同して不動産売買業、即ち不動産を買入れこれを他に転売し、あるいは建売住宅を建築してこれを他に売却する等の業を営んでいたこと。

(2) しかし中井は、自らは資産を有しなかつたため、内田から、転売等による利益を分配するとの約で出資を受けていたこと。ところが、中井は転売等により利益を得ていたものの出資金の一部及び利益の一部を内田に支払つただけで、その多くは返済せずこれを他の不動産の買入資金にあてるなどしていたこと、そのため昭和四一年頃には中井が内田に支払うべき出資金及び利益分配金の額は多額なものとなつていたこと、そしてその頃、内田が中井に出資金及び利益分配金の返済を強くせまり、これに困窮した中井は原告に対し、原告所有の不動産を右債務の担保として提供してくれるよう依頼したこと、原告は中井の依頼を受け入れ、右債務の担保として原告所有の不動産に抵当権を設定することを承諾し、その登記手続等のために中井に印鑑証明書及び実印を交付したこと、昭和四一年一二月初旬、中井、内田及び内田の使用人の訴外近藤義男の三者が協議し、メモ等により中井が内田に支払うべき出資金及び利益分配金の総額を金一八、〇〇〇、〇〇〇円と確定し、右金一八、〇〇〇、〇〇〇円の担保として原告所有の土地四筆、建物五棟に抵当権を設定することとしたこと、その際訴外近藤の発案により債務者を原告とすることとしたこと、そして原告の承諾を得ることなく金額を金一八、〇〇〇、〇〇〇円、債権者を内田、債務者を原告とする金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約証書を作成し、同月八日前記不動産につき抵当権設定登記をしたこと、

(3) 昭和四二年初旬、中井は、他から借り入れていた金員の返済を求められ、その支払のための金策をしていたところ、これを知つた内田の紹介により日本貯蓄信用組合から金三、〇〇〇、〇〇〇円を借入れることとなつたこと、そして中井は原告に対し右借入につき担保の提供を依頼し、原告はこれを承諾したこと、ところが中井は、同年四月一七日、原告に無断で右組合からは原告を借主として原告名義で金三、〇〇〇、〇〇〇円を借入れ、原告所有の土地建物につき抵当権設定予約を締結し、同月一九日右土地建物につき抵当権設定請求権仮登記をしたこと、又右借入に際し内田が保証人となつたこと、そして中井が右債務の支払を怠つたため、昭和四六年一二月二五日内田が保証人として右組合に対し元本金二、一六九、二二九円及び同日までの利息金五六七、六四二円の合計金二、七三六、八七一円を代位弁済したこと、

(4) 昭和四七年になり原告は、原告所有の不動産を処分することとなつたが、前記のとおり内田らのため抵当権が設定されていることからこれを解決する必要にせまられ、訴外寺村寿二に解決方を依頼したこと、そこで訴外寺村と内田の代理人弁護士訴外仁藤一とが交渉し、その結果昭和四七年九月二九日、原告、中井及び内田の代理人訴外仁藤との間で、(イ)原告及び中井は内田に対し連帯して金一八、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四一年一二月一日から支払済まで年一割五分の割合による金員の支払義務あること及び内田のためになした前記抵当権設定登記が有効であることを確認する、(ロ)原告及び中井は連帯して内田に対し、右債務の弁済として同年一〇月一〇日までに金二〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払う、(ハ)原告及び中井は内田に対し、内田が原告らに代位して右組合に弁済した前記合計金二、七三六、八七一円の支払義務あることを認め、これを昭和四七年一〇月一〇日迄に支払う旨の和解が成立したこと、なお右和解に際し、原告は各債務につき原告が物上保証人ないしは保証人であることを明確にするよう求めたが、訴外仁藤が前記のとおり形式上いずれも原告が主債務者となつていたことからこれを拒否し、その結果右認定のとおりの和解をすることとなつたこと、

(5) 以上の結果、原告は、内田に対する右債務を支払うため本件土地建物を売却し、その代金から昭和四七年一〇月二三日内田に対し右債務の履行として金二二、七四〇、〇〇〇円を支払つたこと、

右認定に反する証人内田寿栄男、同中井晋、原告本人の各供述部分及び乙第一〇、第一一号証(以上は、内田寿栄男の供述書あるいは供述録取書)の記載内容はたやすく採用できない。

以上認定の事実によれば、実質上、内田に対する元金一八、〇〇〇、〇〇〇円の債務の主たる債務者は中井であつて原告は物上保証人であるにすぎず、それを中井、内田らが形式上原告を主たる債務者としたものである。又右同様右組合に対する主たる債務者も中井であつて原告は物上保証人であるにすぎず、これを中井が形式上原告を主たる債務者としたに過ぎない。したがつて右組合に対して、保証人たる内田は、実質上の主たる債務者である中井の債務につき代位弁済したものと解すべきところ、原告は前記認定の和解契約により内田に対し内田が代位弁済した全額を中井と共に支払う旨を約したものであるから、その関係は、主債務者たる中井の内田に対する求償債務を原告が保証した場合に準じ、それと同様に取扱うのが相当である。

そうすれば、前記認定の原告が内田に支払つた金二二、七四〇、〇〇〇円は、中井の内田に対する債務につき物上保証人あるいは保証人として支払つたものといわねばならない。しかるところ、中井が無資力であり、中井に対し求償権を行使することができないことは当事者間で争いがないのであるから、前記認定の原告が内田に支払つた金二二、七四〇、〇〇〇円については所得税法六四条二項により譲渡なかりしものとみなされるべきである。

(二)  成立に争いのない乙第二乃至第四、第九、第二四、第二五号証、第二六号証の一、二、証人片岡寛の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二乃至第一四、第二〇乃至第二三号証、証人片岡寛、同中井晋の各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、

(1) 前記認定のとおり中井は、不動産業を営んでいたのであるが、昭和三九年頃になり、内田からの出資も、すでに多額になつていたことからこれ以上は望めなくなつて資金に窮し、共同経営者の一人でもあつた藤井に金策方を相談した結果、藤井の紹介により藤井が連帯保証人となつて八尾農協から借入れることとなり、又同時に藤井の仲介により、原告も連帯保証人となり且つ原告所有の三筆の土地及び一棟の建物を担保として提供する話ができたこと、その結果昭和三九年二月一七日、中井は、八尾農協から金八、〇〇〇、〇〇〇円を借受け、右債務につき原告及び藤井が連帯保証し且つ担保として原告が前記不動産に抵当権を設定し、同月一八日右抵当権設定の登記がなされたこと、

(2) 中井は、右借入金債務につき、昭和三九年一一月一四日に元金の内金六、〇〇〇、〇〇〇円を返済しその後利息の一部を支払つたもののその余の支払を怠つていたこと、そのため八尾農協は原告に対しその支払を求め、前記不動産につき競売の申立をするに至つたこと、そこで原告は、本件土地建物を売却して右債務を支払うこととし、先ず昭和四七年九月一九日八尾農協に対し同月末日までの利息金一、一八五、四四七円を支払つた結果、同年一一月一五日現在の債務は元金二、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同年一〇月一日から同年一一月一五日までの利息金二二、七四七円の合計金二、〇二二、七四七円となつていたところ、同日(同年一一月一五日)、中井が右債務の担保として八尾農協に差入れていた自己の八尾農協に対する定期預金債権元本金五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同日までの利息金一六八、四四五円合計金六六八、四四五円を右債務の一部の支払に充当し、その残額金一、三五四、三〇二円を原告がさらに前記売却代金のうちから八尾農協に支払い、もつて全てを完済したこと、

(3) 他方藤井は昭和四〇年六月一〇日に死亡し、その子である訴外藤井詮生らが相続によりその権利義務を承継したが、これら相続人らは資産を有し又収入もあり、前記保証債務を支払う資力を有していること、

の各事実が認められる。

ところで原告は、原告と藤井との間で、連帯保証人としての最終的な損失の負担は原告が負うとの暗黙の合意があつた旨主張するけれども、右事実を認めるに足る証拠はないのみならず、中井と藤井とは共同で事業を行つていたこと、八尾農協からの借入は藤井の紹介によるものであり又原告が連帯保証し担保を提供するについて藤井が仲介したこと等前記(1)認定の事実に照らせば、藤井の負担割合が零であつたとはとうてい考えられない。そして右のように原告と藤井との間で負担割合についての合意が認められない以上、右両者の負担割合は各二分の一宛と認めるほかはない。又原告は、藤井の相続人らは八尾農協から保証債務の免除を受けた旨主張するけれども、右主張事実を認めるに足る証拠はない。

一方、中井が無資力であり、中井に対して求償権を行使することができないことは前記のとおりである。

そうすれば前記認定の原告が八尾農協に支払つた合計金二、五三九、七四九円のうち、その二分の一にあたる金一、二六九、八七四円については所得税法六四条二項により譲渡なかりしものとみなされるべきである。

(三)  以上の理由により譲渡なかりしものとみなされる金額は合計金二四、〇〇九、八七四円となる。

3  そこで、前記分離長期譲渡収入金額金五三、五〇〇、〇〇〇円から右2の金二四、〇〇九、八七四円を差引くと、差引分離長期譲渡収入金額は金二九、四九〇、一二六円となり、更にこれから前記争いのない必要経費金三、六七五、〇〇〇円及び特別控除額金一一、〇〇〇、〇〇〇円を差引くと、分離長期譲渡所得金額は金一四、八一五、一二六円となる。

三、以上によれば、本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定は、分離長期譲渡所得金額金一四、八一五、一二六円を基礎として計算された税額を超える部分は違法であり取消されるべきである。

よつて、原告の本訴請求は右の限度で理由があるのでその限度でこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 寺﨑次郎 裁判官 市川正巳)

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